いまさら聞けないSaaS編 ERPパッケージメーカー元社員が解説するSaaSの収益性が高い理由

株式投資

SaaS銘柄、クラウド銘柄、サブスク銘柄。近年、株式市場の話題をかっさらってるイケイケ銘柄を紹介する時、こういう呼ばれ方をします。

そこで質問です!!

「SaaS」、「クラウド」、「サブスク」

これらの銘柄のビジネスモデルとその強みを皆さん他人にきちんと説明できますでしょうか?

できるよ!!って方はこの記事は読まなくて大丈夫ですw

ただ、ぶっちゃけTwitterとかでSaaS銘柄とか言われている銘柄の決算資料や事業内容を見て、「え?これってSaaS違うけど」と思うことがしばしばあります

でも今更「SaaS」って何??とも聞きづらいと思うので、この記事では「SaaS」について、システムの導入手法の説明をした上で、なぜ「SaaS」というビジネスモデルが高い収益を上げることができるのか、なるべくわかりやすく解説して行きたいと思います

本題に入る前に

本題に入る前に、私の経歴を少しだけ紹介したいと思います。じゃないと、この記事どこまで信じていいのってなると思いますのでw

私は新卒で国内のERPパッケージメーカーに入社し、約5年間大企業のお客様へバックオフィス領域の新規営業をしてきました

バックオフィスとは、利益を生み出す商品やサービスを売るフロントの対比で、利益を産む訳ではなく、コストセンターとなる人事や経理、調達、総務の仕事を表し、その仕事をサポートするシステムを売り込んでいました

この領域では、グローバルで強力なプレーヤーがおり、SAP(エスエイピー)やOracle(オラクル)といったグローバルのERPコンペティターと戦っていました

その後転職し、今勤めているB2BのEC事業会社に入りましたが、今の会社でもシステムの企画をやっており、ずっと情報システム産業に関わる仕事をしています

そのため、システムを売る側がどのようなビジネスモデルで儲けているのか、システムを使う側にはどういうメリットがあり、どのような使い分けを行なっているのかが両方わかります

この記事ではなるべくシステムに明るくない人にもわかりやすく、システムの導入の仕方の違い、導入に関わってくる会社とその儲け方、最後にSaaSというビジネスモデルがなぜ高い収益性を実現することができるのか、説明して行きたいと思います

企業のシステムの構築の仕方について

企業が使うシステムを構築する手法としては、大きく分けて3つ(厳密には4つ)の手法があります

企業のシステム構築方法
  1. フルスクラッチ型
  2. パッケージ導入型
    2の劣化版.パッケージ導入型(カスタマイズあり)※
  3. SaaS型

※2の劣化版は、クソイケてないシステムの導入手法になり、パッケージのメリットを活かすことができないダメダメな手法なんですが、実は日本企業の多くがこの手法をとって、結果身動きの取りづらい状況に陥っています。かなり思想強めなので、別記事にまとめたいと思います。読みたい人だけ読んでくださいw

それぞれの構築手法をイラストで解説していきたいと思います

フルスクラッチ型

まずはフルスクラッチ型の構築手法です

このやり方は文字通り、全てを0から作り上げる手法になります

イラストでまとめるとこんな感じ

昔はインターネットも発達しておらず、ホストコンピューターと言って、どデカイ箱(サーバー)を自社内において、その箱の中に自社向けのシステムを作り込んで行くしかありませんでした。この方法は、1社1社0からシステムを作り上げていくので、べらぼーに高いコストがかかります。紐解いていくと実は何社かで共通するような機能も、全て0から作りあげていくので、社会全体で見るとある種労働力の無駄遣いになる、そんなやり方です

ただ、メリットもあり、どんどん作り込んでいくことにより、その作り込みが競合企業との差別化要素となる場合、この手法を取ることにより利益を創出できるので、多少高くても十分見合った投資となることがあります

この手法は今でも健在で、特に利益に直結する領域のシステムで、かつ細かい機能がその企業の競争力の向上につながるような領域では、この手法が使われています

パッケージ導入型

上記で書いたように、フルスクラッチの構築手法は、莫大なコストがかかります。利益を生み出すような領域のシステムであればいいのですが、特にバックオフィスの領域は利益を直接的に産むような業務ではなく、どちらかというとコストセンターなってしまいます

そのような領域で使うシステムは、なるべくコストを低く抑える必要があり、その手法が「パッケージ化(標準化)」という手法になります。パッケージ化(標準化)とは、どの企業でも必要な機能を想定して、あらかじめ機能を実装しておき、システム構築は機能のON/OFFを選択することでシステムを構築していく手法になります

イメージはこんな感じ

予め必要かな?と思われる機能を開発しておき、共通機能として提供することで、機能の開発費用を利用ユーザーから広く回収する=1社あたりのシステム構築費用は安くなるという発想です

実際に導入する時のイラストとしては、こんな感じ

パッケージメーカー側からすると、初期の開発コストはかなりの額が必要ですが、導入企業ごとに開発する訳ではなく、パッケージが売れて導入企業が増えれば増えるほど、その収益性は高まります

労働集約型のビジネスとストックビジネスの収益構造

フルスクラッチ型のビジネスとストックビジネスの収益構造には、決定的な違いが出てきます

労働集約型のビジネスであるフルスクラッチ型の構築手法は、一人あたりの担当社数の限界が売上の限界を決めるという制約があります。フルスクラッチ型のシステム構築を得意とするシステム会社が利益率をあげようとすると、

労働集約型の利益率のあげ方
  • より受注単価の高い仕事を受ける
  • 社員の効率性をあげ、1人あたりの担当社数を増やす
  • 経費を抑えてコスト削減する

このどれかで利益率を上げるしかなく、売上を加速度的に上げるためには、人員を採用しまくるしかないんです

それに比べて、ストックビジネスのパッケージ型の構築は、売上増に人員の制約は関係なく、受注が加速度的に増えても基本的には問題ありません。(厳密にいうと、サポートセンターの人員が逼迫する等、影響はありますが)

図を見て頂いてわかるように、損益分岐点を超えてからは売上増と共に利益率がどんどん上がっていく、そういうビジネスモデルになります

まだ説明していませんが、後ほど説明するSaaSも同じような収益構造になります。グラフを見て頂ければ一目瞭然ですが、一度開発に成功してしまえば高い収益性を実現できるモデルになるので、フルスクラッチ型のシステム開発をしている会社の経営者はパッケージやSaaSを作りたがりますが、実際この「パッケージ化(標準化)」がめちゃくちゃ難しく、開発者(プログラマー)に求められるスキルセットは全く異なります

予め必要と想定される機能を、どの会社でも使えるように一般化して機能実装しないといけないため、パッケージの開発者は開発力だけではなく、高度な業務知識と想定力が必要になります

ただ、言うまでもなくパッケージ開発のスキルセットを持ったプログラマーはそこらへんにゴロゴロいる訳ではないので、優秀なプログラマーは本当に争奪戦になります

SaaS型

最後にSaaS型の導入ですが、アプリケーションの開発イメージはパッケージ型と大きな違いはありません。一番の違いは、「自社でサーバーを持たず、サービスとしてそのシステムを利用する」と言う点にあります

イメージにするとこんな感じ

システムを利用する企業は、サーバーすら管理する必要がなく、契約しさえすれば極論すぐに使える状態になります。イラストで言うとただ単純に「サーバーを持つか/持たないか」、ただそれだけなんですが、実はこれによりパッケージよりもSaaSはさらに収益性が高くなる理由につながります

パッケージ VS SaaS 収益性の違いを産む理由

両者を収益性の観点で比較すると、

パッケージ < SaaS

となりますが、その理由をイラストにしたのがこちらです

要はみんな同じアプリケーションを使うことにより「バージョン管理コスト」「顧客のインフラ環境に依存した対応コスト」が削減でき、パッケージに比べ収益性を高められる状態にできます

SaaS最大のリスク 〜解約リスク〜

収益性で言うと、SaaSはパッケージに勝りますが、SaaS最大のリスクは解約リスクがパッケージよりも高いと言うことです

パッケージの場合は、システム導入時にそれなりのパッケージのイニシャルライセンス費用を負担しており、会計上も無形固定資産として資産計上しているため、償却期間までは使い続ける動機付けがあります

それに対して、SaaSはあくまでシステム利用料として、費用計上するため、パッケージに比べれば解約リスクは高いと言えます

そのため、SaaSでは顧客が満足して使い続けることが重要になり、利用開始後のCS(カスタマーサクセス)が重要になります。顧客満足度を測る一つの基準として、「アップセル」・「クロスセル」がうまくいっているかが指標になると思います

アップセルとは
…顧客の購入単価を上げることで、よりグレードの高いプランやより
 多くの利用者ができるようなプランに変更してもらうことを指します

クロスセルとは
…SaaSベンダーが複数のサービスを展開している場合、他のサービスも
 新たに契約してもらうことを指します。例えば、これまで会計領域のみ
 の利用だった契約を、人事領域まで広げてもらうこと

銘柄選定時の調査ポイント

ここまでシステムの構築手法の違いから、フルスクラッチ/パッケージ/SaaSのシステム構築イメージと儲け方の違いはお分かり頂けたと思いますが、最近は「エセSaaS」銘柄も多く、銘柄選定の時に何を見ればいいのか迷っている方もいらっしゃるかもしれませんので、私なりに見たらいいポイントをまとめて終わりたいと思います

そもそも、業界的には

  • システムインテグレーターなどの事業会社が「SaaSはじめました!」パターン
  • パッケージメーカーが「SaaSのプランも作りました!」パターン

この2パターンかと思います。

まず、事業会社が「SaaSはじめました!」パターンですが、これは新規で顧客(マーケット)を開拓する必要があるので、真っ先にマーケットの調査をしたいところです

具体的なチェックポイントとしては、

  • 展開しようとしているサービスのカバー範囲
    →広ければ広いほど開発費用はかかるが、他社に対しての参入障壁になる
     あと、カバー範囲が広いほど、解約リスクを低くすることもできる
  • SaaSのコンペがすでに存在しないか(グローバルで)
    →グローバルで存在する場合は、日本の特殊性がないか
     例えば日本法制度への対応があれば、海外のSaaSベンダーの参入障壁となる
     あとは、日本独特の商習慣など
  • 現状のSaaS売上比率
  • 既存サービスの利益率
    開発費用の原資となるため
  • その他、決算資料の確認ポインントに関しては、Zeppyの動画によくまとまっているのでこちらをご覧頂ければ大丈夫だと思いますw
【有料級】億り人のクラウド(SaaS)銘柄の選別方法を公開【Zeppy井村】サブスク

次に、パッケージメーカーが「SaaSのプランも作りました!」パターンですが、こちらは既に盤石の顧客基盤を持っていることが多く、SaaSモデルへの移行はパッケージメーカーの利益率に影響を与えると思います

ただ、このパターンですが、正直うまくいっているケースが少ないように感じています。うまくいった例としては、AdobeやMicroSoftのOffice製品など、一部の成功事例はあるものの、SAPやOracleなどのERPパッケージではSaaSモデルへの転換が進んでいる印象が正直ありません

もちろん一部の業務領域においては、SAPグループのAribaなどは導入企業も増えているみたいですが、SalesforceやCOUPA、Workdayのような特化型のSaaSの方が存在感が強くなっている印象です

チェックポイントとしては、

  • SaaS以外にどれくらいのバージョンが存在するか
    →多ければ多いほど、バージョン管理コストがかかるため収益性を圧迫します
  • SaaS以外のバージョンの保守期限
    →保守期限が長いほど移行は緩やかに進んでいきますので、その期間
     バージョン管理コストがかかり、収益性を圧迫します
  • 既存顧客のSaaSへの移行率
    →移行率が低ければSaaSへの顧客の評判が悪い可能性があり、移行時に
     他のサービスに乗り換えられるリスクをはらんでいます

といったところでしょうか

ちなみにグローバルで多く導入されているERPパッケージのSAPは、現行バージョンの保守期限を2025年から2年延長して2027年まで伸ばしました。これにより、SAPユーザーは2027年までに、①SAPの新バージョン「SAP S/4HANA」へ移行するか、②他の製品で再構築するかの2択の選択を迫られているわけですが、ERPの移行はSAPが保守期限を2年伸ばさざるおえないほど、企業にとっては相当の負担になります

日本ではSAPをカスタマイズしながら導入している企業も多いので、SAPのエンジニアを抱えるシステムインテグレーターを狙い、投資をすると言うものありかと思います
(日本のシステムの特殊性については、別記事で書きたいと思いますので、お待ちください)

最後に SaaS銘柄への投資をするならアメリカの方がいい?

最後に私がSaaS銘柄に投資する上で思っていることですが、SaaS銘柄に投資するのであれば、断然アメリカのSaaS銘柄に投資したい方がいいと私は思っています

それは、市場規模の違いがあるから

2018年のデータでは、北米のクラウドサービスの市場規模は全体の約60%を占めており、アジア太平洋の2倍以上の市場規模になります。このクラウドサービスの中には、SaaSだけでなく、IaasやPaaSも含まれますが、この市場規模の差は見過ごせないと思います

以上です

いかがでしたでしょうか?

長文になってしまい、読みにくい部分もあったと思いますが、最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました

今後も私の知っている知識や経験を元に、出来るだけわかりやすく情報を発信していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします

それでは、GOOD LUCK!!

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